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せんごく絵日記 第三回(三好清海入道)

せんごく絵日記

――信州真田屋敷にて、三好清海が書す。

いつものように安芸宮島、厳島神社の巫女をやっとる娘っ子――シロが屋敷へ来た。
わしら家人総出で新年の準備に干し柿を作っておったところで、『柿すだれ』などを興味津々に眺めて回っていたが、やはり味の方に興味があるらしい。
こっそりひとつをかじってから、泣きそうな顔で悲鳴を上げ、周囲の大笑いを誘っておった。

シロよ、こいつは生で食う柿ではない。
そも、そのままでは食えぬ渋柿と信州この時節の霧を見事に調和した、冬の間の貴重な保存食として…… うむ。やはりもう聞いてはおらぬわな。

シロがふてくされておるのを見かねた殿のはからいで、近所の山辺にたわわに実った甘柿の木のところまで連れて行くと、シロは一気に元気が出た様子でわしに肩車をしろと駄々をこねてきた。
うむ。確かにかように小さい娘では枝まで手が届かぬよのう。

体を持ち上げてやるとシロは大喜びで柿をもぎとりはじめ、次々にわしに手渡し始める。食える分だけ取れと言ったに、この娘はのう……否、残さず食うか。シロではな。
腕に抱えきれぬ分をわしが食うておったら、気が付いたシロに泣きながら頭を打たれた。
女子とは難しい。



※シロ……白蓮の愛称(入道専用)。 殿……(この場合は)真田幸村。


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